
バイトリル® ~Best in Class~
バイエル薬品株式会社 動物用薬品事業部 マーケティング テクニカルサービス 加藤 慎治
濃度依存性の抗菌薬は、一度に十分な薬用量を投与することが重要
バイトリル®はフルオロキノロン系のエンロフロキサシンを有効成分とする抗菌薬である。まず、系統および成分の特徴から、バイトリルの有効性について解説する。
スライド1 に薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論に基づく抗菌薬の体内動態に関するグラフを示した。抗菌薬は投薬されるとCmax(薬剤最高濃度)を迎え、その後、体内で代謝を受けながら時間の経過と共に徐々に排泄され、消失していく。経時的に血中(組織中)の薬物濃度が描くグラフの曲線と、投与後の時間軸とによって囲まれた面積はAUC(Area Under the Curve)と呼ばれる。フルオロキノロンのような濃度依存性の抗菌薬の場合、MIC(最小発育阻止濃度)を加えたパラメータとして、AUC/MIC 或いはCmax/MIC の値が大きい方が抗菌力は強くなるとされている。これらの値を大きくするには、MIC は菌株固有のものなので,Cmax をいかに一度に引き上げるか、或いはAUCの面積をいかに大きくするかが重要。そのためには一度に十分な薬用量を投与することがポイントとなる。
一般的な目安として、グラム陰性菌に対し、AUC/MIC≧100 であれば臨床効果が期待できるとされている。MICは菌株により変動するため一概には言えないが、スライド2 に示した2 つのデータによると、バイトリル®は牛呼吸器病に対する最低用量である2.5mg/kg でも前述の指標を超えている。5mg/kg であれば当然AUC の面積が大きくなるため、さらに強い抗菌力が期待できる。
豊富な製品ラインナップもバイトリルの特徴である。通常の注射液の最高用量である5mg/kg よりも、さらに高用量の7.5mg/kg を一回で投薬できるバイトリルワンショット注射液は、濃度依存性抗菌薬の特長を最大限に発揮できる薬剤といえる。
抗菌薬の効力の指標として、病変組織への有効成分の移行性も重要なポイント
抗菌薬の効力の指標として、その有効成分がいかに速やかに・確実に・十分な量を病変部位に到達させられるか、つまり組織移行性も重要なポイントとなる。血中薬剤濃度だけでは臨床上の効果は測れないともいえる。組織移行性は同系統の薬剤間でも異なり、また組織によっても異なる。
バイトリルを投薬すると実際にどのぐらい各組織に届くのか。エンロフロキサシンとして2.5mg/kg を牛に筋肉内投与すると、投与後1 時間で血清濃度は0.9μg/mL となる。血清濃度を1 としたときに、各組織・器官にエンロフロキサシンが何倍量届いているのかをスライド3 に示した。いずれの組織・器官においても、血清中よりもより高濃度で分布しているのが分かる。また、5mg/kg および7.5mg/kg で投与された場合、血中濃度の上昇に比例して組織・器官内濃度も濃度依存的に上昇する。
肝・胆汁へ多く排泄されることで、腸管疾病の原因菌に対する殺菌力も高まる
エンロフロキサシンの組織移行性の特徴の一つとして、胆汁濃度が飛びぬけて高いことが挙げられる。動物種差はあるが、他のフルオロキノロン系抗菌薬は一般的に腎排泄の割合が高い。一方、エンロフロキサシンは尿中排泄率が低く、腎よりも肝・胆汁への排泄割合が非常に高い。胆汁は肝臓で生成され、胆嚢で濃縮・貯蔵され、十二指腸に排泄される。つまり、エンロフロキサシンも、代謝産物を含め、腸管に高濃度で分布することになる(スライド4)。よって、病原性大腸菌をはじめ、腸管疾病を引き起こすさまざまな病原菌に対して、フルオロキノロン系抗菌薬の中でも特に強い抗菌力を発揮することが期待できる。
有効性の高い抗菌薬の選択・使用が、耐性菌の蔓延防止にもつながる
耐性菌の発生を未然に防ぐ一つの考え方として、MPC理論が提唱されている。これまでは抗菌力・抗菌薬選択の指標としてMICが用いられているが、MICより高いMPC(Mutant Prevention Concentration:突然変異株阻止濃度)を突破する抗菌薬或いは薬用量を選択すれば、感受性菌に加え、突然変異株の出現をも阻止できるという理論である。薬物濃度がMIC以上・MPC以下のMSW(Mutant Selection Window:変異株選択領域)で推移すると、MIC以上なので感受性菌は死滅するが、MPC以下なので耐性を獲得した突然変異株を殺滅できない。よって、耐性株が増殖・蔓延してしまうことになる(スライド5)。
MIC 同様、MPC も菌株により変動するが、エンロフロキサシンのMPC 値について報告されているさまざまなデータによると、概ね良好なレベルを保っている。例えばスライド6 のデータでは、肺炎起因菌のP. multocida に対し、最低用量である2.5mg/kg でもMPC を超えており、耐性菌出現の可能性は低い。高用量の5mg/kg、或いはワンショットの用量である7.5mg/kg で投与すれば、さらにMPC を大きく上回り、抗菌力に加えて耐性菌の抑制力も上昇する。
また、前述のようにバイトリルは組織移行性にも優れているので、肺組織では血中濃度以上の高濃度の有効成分が到達する、つまりMPC 値をさらに超えていくことが考えられる。なお、他の同系統の薬剤と比較して、エンロフロキサシンは非常に良好なMPC を示している。
今後もMIC は抗菌薬選択の重要な指標であると考えられるが、MIC 基準の薬剤・用量選択を行うと、耐性菌出現・蔓延の可能性が危惧される。牛自身に十分な免疫力があれば自力でも健康を取り戻せるであろうが、現実的にさまざまなストレス要因に囲まれている状態では免疫力の低下は免れない。結果として、そのような状態の牛に対し中途半端な薬剤・用量を投与すると、耐性菌の出現・蔓延を助長することとなり、再発時には同じ薬剤、さらには交差耐性を考慮に入れると、同系統の薬剤を投与しても十分な効果を得られなくなってしまう。一方、MPC を基準とした薬剤・用量の選択を行えば、耐性菌の出現も未然に防止でき、抗菌薬の効果はより長く維持できると考えられる。
もちろん臨床現場においてMPC 値を測定しながら治療にあたるというのは、現時点では不可能に近い。ただ、MPC という「意識」を持って治療にあたることは可能かと思う。人体薬の領域では、耐性菌抑制を視野に入れた抗菌薬の用法・用量の変更などの動きが既に始まっている。畜産業界も新しい時代に差しかかっているのではないだろうか。
ポイント
- 濃度依存性のフルオロキノロン系抗菌薬は、Cmax・AUC の値をいかに上げるか、つまり一度に十分な薬用量を投与できるかが重要。
- 抗菌薬の臨床効果を考える上で、有効成分が血中濃度だけではなく組織にどれだけ移行できるかがポイント。
- バイトリルは豊富な製品群を有する。一度に高用量投与が可能な、濃度依存性抗菌薬の特長を最大限に発揮できるバイトリルワンショット注射液もある。
- エンロフロキサシンを有効成分とするバイトリルは優れた組織移行性を有し、肺をはじめとする各組織・器官に高濃度に移行する。また、特に肝・胆汁への排泄率が高く、腸管疾病起因菌にも強力な抗菌力を発揮する。
- 耐性菌を蔓延させないための一つの鍵は MPC 理論に基づく投薬。エンロフロキサシンは同系統の他薬剤の中でもMPC 値が低く、通常の用量でも耐性菌選択の可能性は低いと考えられる。